雇われハンターをやめてから孤独な戦いが続いた。
組織というものから離れてしまうと自由である反面、自分がいかに孤立しているのかがよくわかる。
と他人事のように説明をしてきたのはレオリオの真正面に座るクラピカだった。
クラピカが仕事をやめてから再開できる回数は確実に増えている。
それは心の底からいいことだと思った。
今までのクラピカは働き詰めであったため、いつ体を壊してもおかしくない状態だった。

「それでもゆっくり時間を過ごせるんだからいいじゃねぇか。それにお前が思ってるほど孤立してるように俺は思わねぇけどな」
「確かにレオリオやゴン達がいるからな。仕事を辞めた後もセンリツ達ともたまに会ったりする。孤立というのとは違うのかもしれない」

いい仲間を持ったはずなのに。
釈然としないこの感情は何だろう。
縛られるものがないということは甘えも出てくるということだ。
このまま自由の身でいることが怒りを風化させることに繋がるような気がして心身が落ち着かない。
自分だけのうのうと生き残っていることが罪であるのではと思うことがある。
皆苦しい思いをして殺されたというのに。

「クラピカ、またくだらないこと考えたりしてないだろうな」
「くだらないことなどない。お前じゃあるまいし」

失礼なことを言うなと言い返したがなんとなくクラピカの様子に違和感があるのはレオリオ自身もわかっていた。
いつものような──否、以前のように会話は弾まない。
テーブルに置かれた食事は完全に冷めてしまっていた。
食が進まないのかフォークを置いてクラピカは立ち上がる。
残りは後で食べるとだけ言い残して外へ出かけてしまった。
レオリオはクラピカと再会するときには必ず手料理を振る舞っており、彼からも毎回楽しみにしていると言われていた。
残されてしまったこともさることながら、今のクラピカが何を考えているのか今ひとつレオリオは掴めていないことも情けなく思う。
二人とももう成人した年齢だ。
大人としてわきまえているつもりだが、どこかぎこちなく拙いところがある。
レオリオは窓に叩きつける雫の音で我に返った。
外は雨が降り出していた。





外出した途端に雨が降るというのも自分のせいな気がしてクラピカは自嘲した。
しかし雨は嫌いではない。
むしろ好きだ。
頭から足までびっしょり濡れて全て綺麗に洗い流してもらっているような気がする。
そんなことは許されるはずないのだけれど。
シャワーを浴びるように天を仰ぎ、顔に降りかかる雨は冷たくて気持ちがよかった。
きっと涙だって誰にも気付かれない。
だから雨が好き。

ふらふらとただ歩き続けていたので何処まで移動したのかわからない。
意識が朦朧とする中で正面から誰かとぶつかった。
傘を持ったレオリオだった。

「…ついにイかれちまったのかお前は」
「何を言う。私は至って正常だ」
「どこが正常なんだよ。こんな夜中のしかも雨降りの中で傘も差さずに歩いてたら通報されるぞ」
「馬鹿なことを言うな。誰も通報など面倒なことをするものか。私などに構う暇人などいないのだよ」

ザバザバと酷く重苦しい雨なのに、どこか切なく哀しい音色でアスファルトを奏でている。
その雨に紛れてクラピカの悲観的な思いも吐露された。
クラピカは泣いている。

「バカ野郎…お前に構う暇人がここにいるってのが見えてねぇのかよ。お前の目は節穴か」
「……」
「医者として意見を言わせてもらえばこのままだとまた高熱出るぞ。お前はすぐ体調を壊すからな」
「…言われなくともわかっている!」
「ったく。世話の焼けるヤツだ…こっちの身にもなりやがれっての」

頭をガシっと掴まれ引き込まれた。
押し当てられた胸は広くて大きい。
そして温かい。

「帰るぞ」
「…私の前でかっこつけても無駄だ」
「いいから黙ってろ」

ぶっきらぼうな言葉でもその節々に優しさが零れており、クラピカはなおいっそう涙が止まらなくなっていた。