今日はある人物の手伝いをするために、はるばる異国を訪ねた。
あれからもう何年会っていないのだろう。
ハンター試験やゾルディック家、ヨークシンシティと旅を一緒に続けてきた人物はあれから時が経って無事に医者になれたのだそうだ。
お互い時間の都合が合わず、祝宴もできなかったから会うのは本当に久しぶりであった。
待ち合わせは空港の入り口。

「(私は彼を見つけられるだろうか?あれからだいぶ経つし、向こうも私を忘れているかもしれないな)」

不安を抱えつつ、クラピカは腕時計に時々目をやりながら彼を待つことにした。
日差しが暑い。
もう少し薄着で来てもよかったかもしれない。
ことあるごとにクラピカの格好は厚着であると指摘されたことを思い出した。

「(あいつは文句ばかりだ、全く人の神経を逆撫でする愚か者め)」

確かに自分の服装は厚ぼったいかもしれない。
周囲を見渡せば薄手の服を着た者が多い。
知らない国であったので一応は気候や環境も調べたのだが、思いのほか暑い土地柄だったようだ。
日差しを避けるために何処か別の場所へと移動しようかと顔に手を当てていると大きな影がクラピカを包む。

「よぅ!待たせたな!」
「レオリオ!遅いではないか!」
「なんだよ、会って早々文句言うのかオメェはよ」
「当たり前だ!こんなところに立っていては私が溶けてしまうではないか。今回はお前の仕事の手伝いなのだからお前が早く来るべきなのではないのか」
「ったく…はいはい俺が悪かったよ。しかしなぁ、平均最高気温28度の国でその格好はねぇだろうよ。見てるこっちが暑苦しいぜ」
「何を言う。私は20度と聞いたからこの服装で来たのだ。大体今回に限らずお前はいつも私を暑苦しい格好だとか言うではないか!これはだな、クルタに代々伝わる貴重な民族衣装──」
「だー!わかったっつぅの!俺はお前の衣装を侮辱してるわけじゃねぇしお前が耐えられるんだったら何も言わねぇよ。だが、クラピカ。お前のいう20度って数字はこの国の最低気温のことだ」

どうやらうっかりミスをしてしまったようだ。
クラピカが何も言えずにいると、少しは俺を頼って聞けばよかったんだよと呆れて言った。

「おい、いつまでもむくれてんじゃねぇよ。早く行かねぇと夜になっちまうぜ」
「誰のせいで時間が遅れていると思ってるんだお前は!調子のいい奴め」

会えば出てくる言葉は文句ばかりだが、二人ともとても楽しそうな表情をしている。
それもそのはず、月に数回連絡を取る程度でこうして会話をするのがひどく懐かしかったのだ。
こうして顔を合わせて話すのは気持ちがよかった。

「で──飛行船で行ける場所は限られてるから途中から徒歩になるんだけどよ、大丈夫だろうな」
「お前は誰に物を言っているんだ?私はハンターだぞ。しかも一人では心許ないと言うから私が付いてきてやったのではないか。むしろ心配なのはレオリオ、お前の方だが?」
「俺だってただ勉強三昧だったわけじゃねぇぞ。体力に自信がないわけじゃねぇ」
「ほう、ならば念の修行はどこまで進んだのだ?」

クラピカの鋭い質問にレオリオは答えることなくうやむやにして別の話題に切り替えられた。
やはりこの男、未だに念能力が使いこなせないようである。
わざわざ遠方であるクラピカを呼んでまで調合に必要な薬草を取りに行くというのだからあらかた予想はしていたのだが。

二人は生い茂る木々が連なる山の奥へと足を運んだ。
確かにここまで来る間に山賊やら野犬やら大した相手ではないにしろ、武器なしで行くには少々厳しかった。
念を使うまでではなかったのでクラピカは久々にクルタ二刀流の木刀で相手を殲滅していた。
しかしその後ろでおろおろするこの男、以前に増してやたら弱弱しくなったようにも思う。

「お前はさっきから逃げてばかりだがお馴染みのナイフは使わないのか」
「いやー実は置いてきちまってよ…」
「お前には全くと言っていいほど期待はしていないが、及び腰というのもどうかと思うぞ。自分の身を守る術くらい持ち合わせたらどうなのだ」
「お前に言われちゃ何も言えねぇな…確かに俺もハンターではあるんだし、武器くらい持ってくるべきだったな」

私がいなければ薬草を取ってくるなど不可能に近いな、とクラピカは言った後に少し考え込んだ。
レオリオはその様子が気になり声をかける。

「なんだよ改まって黙ったりして。腹でも壊したか」
「レオリオ…何もこんなことは私に頼むまでもないじゃないか。ハンター試験のときに一緒に合格したら奴らがいるのだし、彼らに頼んでもよかっただろう?距離的にも私が到着するのを待つより早く着く奴もいたのではないか?」
「はぁ?お前は何を言ってんだ?俺はお前だからこの役目を頼んだんだぞ」

レオリオの意図を理解するまでに時間を要したクラピカ。
すると突如何者かがクラピカを連れ去った。
鳥ではない、あれは魔獣か。
一瞬の出来事にレオリオは体制が整えられない。
そもそもクラピカを助けるにも武器がない。
そうこう考えているうちにあっという間に視界から消え失せてしまった。

「お…おい!クラピカ!クラピカーッ!!!!!」





その頃クラピカは宙吊りになりながら暴れていた。
なんとか引き剥がしたいが爪が肩に食い込んでいて離れられない。
油断したのがまずかった。
しかも大した敵はいないと気が緩んだのも悪かった。
このままでは危険だ。
自分が、じゃない。
何の武器も持たぬレオリオが、だ。

「くっ…!離せ!」

片手に持っていた木刀で叩き、ようやく魔獣から引き離された。
着地はしたが、自分がどこに連れて来られたのかがわからない。
ここはどこだ。
早く見つけないとレオリオが危ない。
クラピカはダウジングチェーンで早速レオリオを探した。
そう遠く離れてはいない。
すぐに会えるだろう。
しかし。
先ほどの魔獣はまだクラピカを追いかけてくる。
余計な殺生はしたくない。
だがこのままついてこられても困る。

「(とりあえずレオリオの所へ向かわねば)」

少しでもいいからレオリオもハンターらしくして欲しい。
何のためのハンター証なのだろう。
まったくもって情けないとクラピカは思っていた。

「おぉ!クラピカ!無事だったか…って…お前!後ろに」
「言われずともわかっている!」

レオリオと合流できたのはよかったがやはり魔獣は追いかけてきた。
それならば仕方あるまい。
緋色の目に変化したクラピカは攻撃を仕掛けてきた魔獣に対し、鎖で防御した。
ジャラジャラとその金属は攻撃を上手く交わし、さらに心臓へと一直線に伸びて刺さった。
律する小指の鎖。

「今から私が言うルールを守らねばお前の命はない。今すぐここから立ち去れ。そして二度と私達の前に現れるな」
「わ…わかった…」

慌てて魔獣は姿を消した。
目の色を元に戻したクラピカはぐったりと地面に膝をつく。
レオリオはすぐに駆けつけクラピカを抱えた。

「おい!しっかりしろよ!」
「ふっ…何を慌てているのだレオリオ。私は一時的にオーラの量を増やしたから疲れているだけなのだよ。たかが魔獣ごときで」
「バカ言ってんじゃねぇよ!それに肩まで怪我してるじゃねぇか。傷を見せやがれ」

言葉は悪くても壊れ物を扱うかのようにレオリオは優しく手当てをしてくれた。
さすがは医者の卵だ。
以前は簡単な応急処置しか知らなかったのに今ではてきぱきと必要に応じた治療をしてくれている。
その目つきも真剣そのものだった。

「これで大丈夫だ。悪かったな…お前ばかりに大変な思いをさせた」
「何を言う、こんなものは大した傷ではないぞ。私は傷を癒す能力も持ち合わせているが使うほどのことでもない。お前が気にし過ぎているだけだ。それに私が油断したのが悪いのだ…しかし手当てが早くなったな」
「そりゃあ伊達に何年も勉強してないからな」
「そうだったな…感謝する」

朗らかに微笑むクラピカにレオリオも穏やかな笑みを見せた。
力というのは本来このような使い方をされるべきなのだ。
守るものあってこそ力は発揮される。
守らなくてはならないという強い感情の重さが、クラピカにとってはむしろ心地よかった。
休む間もなくクラピカが先に行くと言い出したのでレオリオはすぐに阻止した。

「ちゃんとキャンプキットだって持参してるんだ、この国はかえって夜の方が涼しい。そう焦らなくてもいいだろ。手当てだって簡易にしてるだけだ、休んでから行こうぜ。クラピカ、明日も大丈夫なんだろ?」
「あぁ、明日と言わずともいくらでも付き合えるぞ。私は自由の身だからな」

そうだったなとレオリオが言う。
クラピカは既に雇われハンターを辞めていた。
今はブラックリストハンターとして個人で動いているのだ。
雇用主が不在ならばもう時間を気にする必要はない。

「だからレオリオの荷物はやたらとかさばっていたのだな。そこまで準備しておいてナイフを忘れるとはどんな神経をしているんだか」
「今度は持ってくるさ」
「あぁ是非そうしてくれ」
「あー…あとさ」
「なんだ」
「…やっぱお前とじゃなきゃコンビは組めねぇなって思ったんだよ。他の連中とは組めねぇ」
「…それは私も同じだ。だがな、そのコンビというのはやめてもらえないか?お前とは以前同盟を組んだことはあったがコンビではない」
「言葉なんて同じようなもんだろーが。全く面倒な性格だぜ」
「その面倒な性格の奴と組んでるお前も面倒な性格の奴ということだな」

相変わらず捻くれ者同士だが相性がいいからこそやはり成果があるのだろう。
それはお互い理解しているようだった。
これからの散策は長くなるかもしれない。
否、むしろ長くあってほしい。
クラピカもレオリオも心が踊る気持ちでいっぱいだった。