もっと強く、そして他人に認められるだけの実力をつけたい。
クラピカは天に誓い、祈りを捧げた。
船の出港までまだ時間がある。
食事を済ませていなかったクラピカは近くの店に入った。
客数はそこそこで店員に案内された席に座り、ふと周りを眺めてみた。
新しい場所、新しい人、新しい空気。
全てが新鮮で旅行に来ている気分と錯覚してしまいそうになる。
だが今の自分はハンター試験を受けるための、しかも準備段階にすぎない。
まだ船にさえ乗っていないのだ。
いろいろ考えているうちに食事が運ばれてきた。
こうして落ち着いて食事ができるのは試験まであと何回なのだろうか。
初めて受験するのでハンター試験がどれほど過酷であるのかは想像しかできない。
ハンター試験は毎回受験者数が多いのに合格人数は酷く少ないという。
合格者が1人もいない年もあるとか。
つまり並大抵では受かるものではないのだ。
「(だからといって諦めるわけにはいかない。私ができることを全てやり遂げるまでだ)」
ウィンドウの外を見るとやたら騒がしかった。
スーツを着たいい年をした男が店主のいない間に魚をたくさん持ち運ぼうとしているではないか。
それを緑の服を着た少年が追いかけている。
騒がしくされるのは少々気に障る。
自分がかかわらなくてよかったと思いながら食事をしていると、店員が慌てふためき店内にいた客も騒然としてクラピカを見ていた。
「(なんだ?私の顔に何かついているのか?)」
「ひっ…!お、お客さん…!じっとしてないと危ないよ!クモだよ」
「…クモ……旅団(クモ)だと?」
視線をテーブルに移せば大きな蜘蛛がクラピカの食事していた皿に移動しようとしていた。
じんわりとクラピカの目が緋色になると同時に、すぐさまクラピカはフォークで蜘蛛を弾き飛ばした。
店員も客も驚きながら壁に突き刺さったフォークと蜘蛛の行方を目で追っていた。
クラピカの目が緋色から再び元の色に戻る。
別のフォークを貰ってクラピカは再び食事をし始めた。
「(私はこのために…ハンターになるのだ)」
目障りなものを視界に入れたことでさらに固い決心がつく。
後戻りはしない。
これから起こりうる全てに対して恐怖などない。
どんな苦難も乗り越えると誓ったのだ。
クラピカは勘定を済ませて店を出た。