パドキア共和国、ククルーマウンテンにてキルアと再会できたゴンとクラピカ、そしてレオリオ。
キルアと無事に合流することができ、一同は再会の喜びと共に安堵した。
「すごかったなぁーキルアん家。あんな大きい家だと思わなかったよ」
「家族の方々も…皆変わった方だったがキルアを大事にしてくれていたんだな」
「変なウチだろ?普通グレるぜ」
腕を後頭部に組んで嫌々ながらにキルアは答えた。
こうして自由に行動ができる生活というものを今もまだ実感していないように思う。
ゴン達が来てくれなかったらあのまま自分の家に閉じこもった生活を強いられるところだったのかもしれない。
もちろん脱出を自力で行うのは簡単ではあったが、ゴン達が現れなければ脱出する気も起きなかった。
つまらぬ時間潰しをするところだったのだ。
キルアは直接言葉にしなくともゴン達に感謝していた。
彼らがいなければ今の自分はないといっても過言ではない。
「ところでさ、この後どうするの?キルアが帰ってきたんだしこのまま別れるのもあっけないよね」
「そーだな、ゴン。俺もお前達がせっかくこの国にやってきてくれたわけだし…あんまり時間ないけど観光とかどうよ?」
それはいい考えだとクラピカも賛同した。
「でもよ、もうパスポートの期限が迫ってるぜ。大丈夫か?」
「おっさんは考えが固いんだよ。たかが一日二日くらいどうってことねぇだろ」
「そうだぞレオリオ。ゴンやキルアはともかくだな、ここからは私達の出番が極端に減ってしまうのだ。ヨークシンシティでまた登場できるといってもだな、それ以降は皆無といっていいほど出番がなくなってしまうのだよ。ここで見せ場を作らないと読者の方々に忘れられてしまうぞ」
「なんだよ…その理屈は。それでもお前はまだ一コマでもその後出番があるじゃねぇか。それを言ったら俺の方が──」
「あーもう二人ともゴチャゴチャうるさいよ。と・に・か・く!今から観光巡りするけど反対するヤツはいないんだろ?じゃあさっさと行こうぜ」
キルアを先頭に四人はもう少しこの国に残ることにした。
澄みきった青空が彼らを歓迎するかのように、日差しは暑くかんかんと照らしている。
彼らは喉が渇いたので近くの出店で飲み物を買った。
炭酸飲料のようだがあまり見たことのないラベルで、どうやらこの国の特産物である果実を使った飲み物であるらしい。
物珍しさがあり、こんな平和な旅も楽しいとゴンは思った。
「ねぇ、キルア。観光っていうけどどこに行くの?」
「あぁ、迷ったんだけどな。時間もそんなにないんだったらこの近くにある河にでも行こうかと思ってるんだ」
「河か…となるとボートにでも乗るということか」
その通り、とキルアは言った。
キルアの話によるとこの近くにある河は大変観光客に人気のあるスポットの一つであるという。
まず訪れたらボートを楽しむものであるとガイドブックに紹介されているくらい有名なのだそうだ。
また大きな河であるので景色も非常に綺麗であるらしく、老若男女問わずボート乗り場には行列ができるのだという。
そしてこの河はただの河ではないところが魅力なのだそうだ。
その魅力というのは何かとゴンが尋ねるとキルアは含んだ笑いで答えた。
「…出るんだぜ。伝説があるんだ」
「伝説?何が出るの?」
「ローレライ伝説だ」
その河には綺麗な姿をした人魚・ローレライが出没するのだという。
自然の管理が行き届いている河はその人魚にとってはとても住み心地が良いらしい。
もちろんこの類いの話は迷信とされており信じているものは多くないのだが、それでも別名・ローレライの河と名づけられている程人々に噂は広まっている。
そのローレライを見たいが故にボートに乗る者も少なくないのだそうだ。
「なるほど…面白い話だな。だがやはり伝説というからにははっきり証明されていないのだろう?」
「まぁね。俺だって実際見たわけじゃないし。でもそのローレライの歌声を聞いて死んだヤツもいるんだぜ。あながち俺は嘘と思ってないよ」
「ねぇねぇ、人魚って確か泡になって消えるんじゃなかったっけ?」
ゴンの問いにレオリオは答えた。
「お前が言ってる人魚ってのはアンデルセンが書いた人魚姫のことだろ。あれは童話の中の話だな」
「いや、レオリオ。ローレライの伝説にも不実な恋人に絶望して川に身を投げた乙女という話があるぞ。水の精になった彼女の声は漁師を誘惑し破滅へ導くと伝えられている」
クラピカの話によれば各国ごとに伝承は様々あるらしい。
ちなみにローレライという名前は岩の名前になっていると加えて説明した。
「あぁ、そういえば聞いたことがあったかもしれない。その岩があるせいで人が死んじゃったからっていう…」
「まぁいくらでもこんな話はあるけどな。各国によっていろんな呼ばれ方をしているってのもあるみてぇだし」
「セイレーンや八百比丘尼というのもあるのだそうだ。こういう話は面白いな」
それは聞いたことがないとゴンが言ったために恒例のクラピカによるうんちく話が始まってしまった。
キルアは止めようと思ったがゴンが真剣に聞いているために邪魔もできず、仕方なくうんちく話に付き合うことになってしまった。
そうしているうちに四人は河のボート乗り場に着いてしまった。
「あっという間に着いたね」
「…長いうんちくのおかげでな」
「キルア、何か言ったか?」
「いや…なんでも…」
キルアは言いかけて何か違和感を感じた。
いつもは観光客で賑わい、人でごった返しているはずなのにボート乗り場にはその姿が見受けられなかった。
気のせいではない。
明らかに人はおらず観光客もいなかった。
ボート乗り場に管理人らしき背の低い老人がいたのでキルアは彼に話しかけた。
「なぁ!今日は休みなのか?」
「残念だけどもう営業できないんだよ。もうボートは諦めな」
眉間に皺を寄せ、苦渋の表情を浮かべる老人は何か言いたそうにしながらも半ばうなだれた様子で入口にロープを掛けている。
本心からボートを中止したとは思えなかった。
立ち入り禁止と書かれた張り紙は、河が近いせいか水分を含んでおり破れそうになっている。
ボートに乗らなくてもわかる程の大きな河は太陽の光に反射して水面はキラキラと輝いて綺麗なのに。
「営業できない日なんてなかっただろ?なんで突然やめるんだよ」
「…出たんじゃよ」
「何が…」
「伝説のローレライが…ついに出たんじゃ」