レオリオは初めて訪れた国に心が弾んでいた。
今日から2週間程友人達と旅行に訪れていたのだ。
友人らは大学の同級生や研究室の先輩などもおり、大勢でそれは賑やかだった。
毎日専門知識を頭に詰め込む日々で夢を諦めようとも本気で考えたが、友人の励ましや今回の旅行などを企画してくれたりというおかげでなんとか通学を続けていた。

情けないぜ───

思い返せば命懸けでハンター証を取得したというのに夢を諦めるなど考えられない。
レオリオは一人ごちた。
飲み物を頼み、友人らのくだらぬ会話に耳を傾けつつも脳内の意識は別な場所へ飛んでいた。
こうして日々学業に専念している中(遊んでもいるが)、あいつらはどうしているだろうかと気になってしまう。
ハンターとして活躍しているんだろうか。
たまに連絡は取るものの、やはり忙しいのか単発のメールでしかやりとりがない。
それは仕方のないことだ。
自分達は進む道がそれぞれ異なるのだから。
当たり前のこととわかっていながら、やはり仲間に会えないのは寂しいとレオリオは思う。
メールで連絡が取れるといってもただの活字のやりとりにすぎない。
それは実際に会って話をするのとは訳が違う。
はっきり言ってメールなど比較にすらならないのだ。
送られてくる文字は確かに彼らから発信されたものである。
それは間違いであるはずないのだが、直接的ではないから結局彼らと繋がっているとは思えないのだ。
それは一種の誤魔化しにも似ている気がする。
コミュニケーションを取っているフリをしているだけなのだと思ってしまう。
現に、今いる友人らの方が付き合いが長くなってしまって仲間の顔や声がだんだんと霞んできてしまうのだ。
それはなんともやるせない気持ちになる。
人の出会いや別れというものはそんなものなのだろうか。

レオリオは空を仰ぐ。
この綺麗な青い空をお前らも見ているんだよな?
返事はもちろん聞こえない。
届かぬ声は号外記事を配り歩く男の声に揉み消された。

「号外だよー!特にプロハンターは必見だよ!!」

チラシは風で宙に舞い、人々は好奇な眼差しでその記事を見入る。
でかでかと書かれた記事のタイトルは胡散臭さを滲みだしたものだった。

<人を喰い散らかす?屋敷の噂>

そのタイトルは比喩的なものか何かと考えた。
実際に人を喰う屋敷などあるわけがない。
バカ高い価格の屋敷か何かで、買い手は支払いができず借金まみれになる…といった人の不幸をネタに書いた記事かと思われた。
だが詳細を目で追うとどうも違う。
本当に屋敷が人間を喰い散らかしている…というらしいのだ。
記事によると屋敷の周辺には荒れ果てた土地しかなく、住民はおらず、植物も生えなければ獣もいないらしい。
孤立したその屋敷に興味本位で入った者は生きては帰れぬというのだ。
さらにその敷地内には人間の死体が埋まっているとかなんとか。
屋敷の謎は深まるばかりで、まず屋敷を見つけることが難しいらしい。
ある者には見えて、ある者には見えないそうだ。
しかし謎を解明するべく立ちあがった勇者なハンターも数多くいたそうだが皆行方不明だという。
確かにハンターなら気になる記事でもある。
だが信憑性に欠ける記事である。
友人の一人が冗談交じりにハンター証のある奴行って来いよと言った。
レオリオは明後日の方角を見た。

やってらんねぇよ───

確かにプロハンターではあるが面白がって見に行く程自分は愚かではない。
ましてや仕事というわけでもない。
自分は医者になるために日々努力しているのであってハンターを目指しているわけではないのだ。
資格取得をしていながらその任務に就くわけではないという、妙なポジションではあるけれども。
だからといってわざわざ危険な場所に足を運ぶ必要などない。
少なくとも自分には。
レオリオはチラシをくしゃくしゃに丸めるとゴミ箱へと捨てた。
すると近くにいた友人の一人が彼に話しかけた。

「レオリオってそういえばプロのハンターじゃなかったっけ?」
「一応、な。だけど俺は興味ないね」
「とかいって帰れなくなるのが怖いんでしょう?いいのよ強がらなくても」

そうだ、怖い。
まともに念能力すら覚えていないのに行くだけ無駄だ。
自殺行為ともいえる。
あえてレオリオは反論せずまったくその通りだと言ってやった。
威張ることじゃねぇよと誰かが言う。
確かにいつまでも名ばかりのハンターというのも恰好が悪いな。
思考をあれこれ巡らせているとポケットに入れておいた携帯電話が鳴りだした。
電話だ。
友人にちょっと失礼と言って席を離れる。
突然のことにレオリオは手に汗を握った。
電話主は先程気に掛けていた仲間の一人、ゴンからだったのだ。