私は飼い鳥になった気分だ。
外部と遮断され、鳥籠の中には私だけ。
この一帯は電波が通じておらず携帯電話が役に立たない。
任務などとっくに終えたというのに。
寄り道などしている場合ではなかったのだ。
異国の地を訪れたからといって仕事で来ているだけだった。
観光で来たつもりなど毛頭なかった。
それなのに。

念でこの鳥籠を壊そうと試したが、どうやらこの中では強制的に絶にさせられてしまうらしく反応はない。
先程食事を案内してくれた女性達は忽然と姿を消しているからに、おそらく私は嵌められたのだ。
そんな上手い話があるはずないとどうして気付けなかった。
私は愚かだ───

先程出された食事になんらかの細工がされていたからだろう。
でなければ私が隙を見せるはずがない。
意識を失った私をこの鳥籠へ入れたのは…あの少女だろうか。
酷く生気を失い虚ろな目をした少女。
私と同い年か、あるいは下か。
そのくらいの年齢だった。
迂闊だった。
他人でありながらあの少女を信じたなんて。
何故。

酷く寒い。
ここには暖炉もロウソクもランプもない。
一面真っ暗でほとんど様子が見えないのだ。
このままじっとしているわけにもいかない。
だが籠からは脱出できない。

どうするべきだろう。
下手に争い事を起こしたくない。
どうにかして話をつけるわけにはいかないだろうか。
そういえば任務で探していたはずの骨は…あぁそうだ。
私の鞄の中ではないか。
指の骨。
いや、もはや崩壊していて形状すら整っておらず、末節骨のみ拾ったと言った方が正しいかもしれない。
どんなに探しても他の部位は見つからなかった。
これが今回のボスがお望みだった宝。
なんとしたことか、私の鞄は手元にない。
つまり別の部屋、あるいは誰かが持っているのだろう。
任務に必要な物でさえ手元にないのでは話にならない。
やはり逃げるといった策では意味がない。
私はとりあえず平静を装い、耳を澄ました。

「(やはり誰もいないのか…)」

声はしない。
だが確実にこの屋敷には人がいた。
噂ではここは幽霊屋敷か何かで、人は住んでいないと聞いていた。
しかし私を屋敷内に招き入れたのは紛れもなく人間だ。
濃い焦げ茶色の緩い巻き髪に紅色のロングワンピースを身に纏った母親のような女性と、漆黒のストレートショートヘアーで異国風な鎧のような服を着た娘のような少女。
奥深い田舎で人のいない敷地に豪勢な屋敷があること自体驚いたが、そもそもこの屋敷は何だ。
何のためにあるのだ。

そしてこの屋敷が血生臭いのは何故。
それほど遠くない場所から男の悲鳴が聞こえた。
嫌な予感がした。