むせかえるような酷い臭いは鼻にこびり付いてなかなか消えない。
だが脱出方法もなく暴れても意味がないことぐらいはクラピカもわかっていた。
この鳥籠のような牢から出るにはどうすればよいのか。
空腹と疲労により段々と思考力も低下しつつある。
任務で訪れただけだけでこのような目に遭うのはやはり罰当たりなことをしたせいかもしれない。
恨まれても仕方ない。
時にクラピカは自分の方向性に悩むことがある。
世の中でしてもいいこと、してはいけないこと。
単純化すれば子供にでもわかることだ。
だがそのルールに準ずると自分の目的到達点には立てない。
これは矛盾だ。
腹を括り割り切っているつもりだっただけで自分が愚かなことに手を出していることに気がつかぬふりをしている。
以前の自分はこんな性分ではなかった。
何処で道を誤ったのだろう。
誤ったのだろうか?
正しいと信じていた道は既に八方塞がりになりつつある。
ふと視線を真下に移した。
檻の隙間から覗いてみると無表情でありながらどこか寂しそうな印象の少女が立っている。
先ほど一緒に食事をした黒髪の少女。
悲壮感を漂わせていたのはこのせいだったか。
食事中もずっと顔を下に向け、一度もクラピカとは目が合わなかった。
始めは暗い印象を持ったがそうではなかったのだ。
彼女が今、何を考えそこに立ちつくしているのかはわからない。
監視や見張りなのかもしれない。
不気味ではある。
だが何故かそこに同情という感情が入り混じる。
彼女はどんな思いでクラピカを見つめているのだろう。
そのとき、彼女は一滴の雫を目から零した。